公式
≪ In the previous issue ≫ あの日……。 これで、長かった戦いも終わったのだ、と思えたあの時。 まだ幼さの残るアドルの横顔を包むように、不思議な光が満ちてきた。 その光は次第に眩さを増し、アドルにはもう、辺りを見ることさえできない。 時をさかのぼること、八百年。 秩序と自由の国、イースが誕生した。 イースは、美しい二人の女神と徳の深い六人の神官によって治められ、 緑溢れる恵み多き国として素晴らしい繁栄をとげることになった。 「黒い真珠」 この美しい宝玉は、イースの誕生と共にもたらされ、その神秘の力は、全ての魔法の源となった。 この「黒い真珠」の魔力を使い、 六人の神官たちが創り出した 「クレリア」という金属は、 イースにさらなる富と繁栄をもたらした。 しかし、「クレリア」を精製する過程において、思いもよらない副作用が生じてしまった。 表と裏、静と動、明と暗、 そして善と悪……。 全てと相反する「魔」が生まれてしまったのだ。 六人の神官は早急に、 災いの元凶である「クレリア」を地下深く封じたが、 生まれてしまった「魔」の勢いは、 もはや止めることはできなくなっていた。 人々が、最後の砦サルモンの神殿に追いつめられた時、 神官たちは「黒い真珠」の力により、神殿を天空へ昇らせて、 災いの狂気から逃れた。 「魔」の軍勢は、 天空へ昇ったサルモンの神殿を追い、 魔力を結集して ダームの塔を建造した。 女神が二人とも姿を消した。 しばらくして、 なぜかぷっつりと魔物の追撃が止まった。 大地には平穏が戻ったが、 イースは既に以前のイースではなくなっていた。 イースの宝と謳われた二人の女神は消え、象徴であったサルモンの神殿も地上から離れてしまったのだから…。 いつの日か、真の平和がイースに復活することを願い、 六人の神官は「イースの本」を六冊の章に分け、それぞれの子孫へ託した。 “イースの本・六冊全てが揃う時、 大いなる力が生まれる…” そして、平穏な日々が七百年の間、続いた。 かつてイースだった地は、 エステリアと名を変え、 二人の女神もサルモンの神殿も忘れ去られていた。 今やイースの歴史を伝え知るのは、 神官の家系だけとなった頃、 あの「クレリア」が、 「銀」という名の鉱物として掘り出されてしまった。 かつての イースがそうであったように、 銀の産出によって、 人々の暮らしは潤っていったのだが……。 “災いの元凶「クレリア」に手を出すと、「魔」が再びよみがえる…” 古い伝承のとおり、 やがて黒マントの男が地下深くから、「魔」を解き放ってしまった。 ダルク・ファクト…… 天空に昇ったサルモンの神殿へ赴き、 イースの全てを手中に治めんとする、 黒き野望を抱いた魔導師。 時を同じくして、ひとりの少年がこの地にたどり着いた。 少年の名は、アドル・クリスティン。 「冒険」という魔法に魅入られた少年。 彼は好奇心に満ちた黒く輝く目と、 どんな岩山でもよじ登れる身軽な体、 そして決してあきらめない、意志の強さを持っていた。 ミネアの町の、ただならぬ空気を敏感に感じとったアドルは、 渦に巻きこまれていくように、冒険へと足を踏み入れた。 自分がイースの運命を左右することになるとも知らずに……。 町から銀製のものが盗まれるという。 行方知れずの人が後を絶たないという。 「イースの六冊の本を取り返さなければ……」 サラという女占師の言葉に導かれ、 アドルは大きく抉られた山の縁に建つ、 神殿へと向かった。 神殿の地下迷宮に監禁されていた、 美しい娘フィーナとの出会い。 多くの助言を授けてくれた、ゼピック村のジェバ婆さん。 イースの歴史のすべてを見てきたという大木、ロダ。 恐ろしく入りくんだ、神殿の地下迷宮や廃坑のなか、 魔物たちの、激しく、執拗な攻撃をくぐりぬけて 一冊一冊集めた イースの本により、 失われたイースの歴史が 徐々にあきらかとなってゆく。 そして、最後の砦、ダームの塔へ。 謎の老人ラーバ。 神官の血を引く、ルタ・ジェンマ。 牢獄の中から助けだしてくれた、ドギ。 盗賊ゴーバンに案内されたアドルは、 邪悪な魔物の徘徊する塔の中でも 様々な人々に出会う。 以前銀のハーモニカを 取り返してあげた詩人レアも なぜか 塔の中に幽閉されていた。 数々のトラップがしかけられた塔を 一階一階昇っていくアドル。 魔物は、より強力に手ごわくなってきた。 ダルク・ファクトは、塔の最上階で待っていた。 クレリアで身を固めた彼にダメージを与えられるのは、やはりクレリアの剣しかなかった。 ダルクの投げつける炎を受けながらも戦いのすさまじい緊張感からか、なぜか熱さも痛みも感じなかった。 あるのは、激しく胸を焦がす、勝利への執念だけだった。 長い死闘の末、ダルク・ファクトの目に驚愕と怒りの入り交じった色が浮かぶ。 「馬鹿な…!?こんな若造にッ…!」 最後の一撃を受ける瞬間、 青く澄んだ天空に浮かぶサルモンの神殿が彼の脳裏に浮かび、そして消えた。 空の色が青みを帯びてきた。 重くたれこめていた雲が、ゆっくり流れ消えてゆく。 どこからか明るい鳥のさえずりが聞こえはじめた。 朝日が昇ろうとしていた。 あたたかく満たしてゆく、冒険者だけが知る充実感。 時の感覚を失っていたアドルは、ひとり戦いの終わりをかみしめていた。 床に崩おれたダルク・ファクトの黒いマントの下から最終章が記された、イースの本が見つかった。 塔の窓から地上を見おろすと、朝もやに包まれたゼピック村が見えた。ジェバ婆さんの家も見える。 「そうだ、地上に帰ったら、一番にこれまでのことをフィーナに話してあげよう」 優しく微笑む彼女の顔を思い浮かべるアドルを、やわらかな光がつつんでゆく。 「イースの本六冊が揃う時、大いなる力が生まれる……」 不思議な光は徐々に強さを増し、 アドルにはもう辺りを見ることもできない。 アドルには聞こえない声で、光が告げる。 「本当の戦いは、まだ終わってはいないのだ。選ばれし勇者よ、天空へ翔べ」 |